ナナオは定期的に報道関係者向けに液晶ディスプレイの技術セミナーを開催している。2007年2月に開催された第1回では、液晶ディスプレイの基本的な原理や特徴、同社の独自技術などを紹介、2008年3月実施の第2回では、液晶ディスプレイにおける広色域環境の現状を解説した。そして第3回目となる今回は「液晶ディスプレイの使い方による疲れ目対策」をテーマに掲げ、ディスプレイの技術的なトピックから離れ、ディスプレイをどう使うべきかについて論じた。
●ディスプレイを長時間使っていると「VDT症候群」になりやすい!?
セミナーは2部構成で行われ、第1部は同社営業1部の塚西里沙氏が液晶ディスプレイの使用による眼精疲労とその調査結果、疲労軽減のための方法などを紹介した。
同氏は、「近年は企業がオフィス環境における従業員の健康管理に配慮することが常識」となり、「今年からメタボリック症候群対策として特定検診の実施や、該当者・予備軍と診断された人への特定保険指導を義務付けるなど、その風潮は高まりつつある」と説明。こうした中、オフィス環境における健康管理で問題視されているものの1つとして「VDT症候群」を挙げた。
VDT症候群とは、コンピュータディスプレイなどの表示機器(VDT)を使用した作業を長時間続けることで、目や心身に疲労・ストレスを感じる症状のこと。2004年に厚生労働省が調査したところ、仕事でのVDT作業で身体的な疲労や症状を感じている労働者は78%にのぼり、「症状内容で最も多いのは目の疲れや痛みで、診療科別の医療費の割合を見ても、眼科は内科、外科・整形外科に続いて医療費の大きな割合を占めている」とのデータを示した。
VDT症候群が問題視されるようになった背景として、同氏は「オフィス環境の変化」を挙げる。近年のオフィス環境はIT化が進むにつれて、紙の書類上で行われていた業務の多くがPCディスプレイ上で完結することになり、PCの使用時間が増加したため、結果としてVDT症候群にかかる人も増えているとの分析だ。また、PCで動画コンテンツを楽しむユーザー層の拡大にともない、液晶ディスプレイ新製品の輝度は液晶テレビ並みに明るくなっており、これも目に負担を与える一因とした。
●ディスプレイの使い方と疲れ目の関係を独自調査
続いて塚西氏は、ナナオが6月30日に発表した「ディスプレイの使い方による目の疲労度調査」の調査内容とその結果を改めて説明した。
これは、同社が眼科医とVDT作業労働衛生インストラクターの監修・指導のもと、独自に調査したものだ。一般的に目が疲れると目のピント調節能力が低下するため、物がはっきり視認できる範囲の最も近い距離(調節近点距離)が次第に遠くなることに着目し、ディスプレイの使い方を変えつつ、1日のPC作業前後に目の調節近点距離がどのように変化するかを近点計(KOWA NP アコモドメーター)で調べた。
調査には同社のWUXGA(1920×1200ドット)対応24.1型ワイド液晶ディスプレイ「FlexScan S2431W-E」を使用した。被験者は普段からオフィスでVDT作業を行っている20~30代の男女11人だ。
調査は3つの測定条件で行った。1つ目はS2431W-Eを100%の輝度(約450カンデラ/平方メートル)で使用した場合、2つ目は周辺光量の違いに応じて輝度を自動調整する独自機能「BrightRegulator」を使用した状態に相当する適切な輝度設定(周辺は照度500ルクス、画面輝度は約 100カンデラ/平方メートル)の場合、3つ目は適切な輝度設定かつ厚生労働省によるVDT指導を実施した場合となっている。
厚生労働省によるVDT指導とは、同省が2002年に発表した「VDT作業における労働安全衛生管理のためのガイドライン」に即したもので、1時間に10分間の定期的な作業休止、適切な作業姿勢の保持、適切なディスプレイの高さや角度の調整といった内容だ。
●ディスプレイの使い方を変えると作業効率までアップ
同氏が示した調査結果は下のグラフの通りで、長時間のVDT作業後は目の疲労度が高まるものの、ディスプレイを適切な輝度に下げることで目の疲労度が低下し、さらにVDT指導による適切なディスプレイの位置設定や作業姿勢、休止時間などを採り入れることで、目の疲労度はさらに低下するとの傾向が見られたという。
また、被験者に対してVDT作業後に疲労の自覚症状についてアンケートを実施したところ、標準設定時に比べて、適切な輝度やVDT指導を適用した場合のほうが、疲れにくかったとの結果が得られた。さらに、3つの測定条件下で雑誌に書かれた長文の文字列を入力し続けるテストを実施したところ、適切な輝度や VDT指導の条件のほうが文字入力数が104.6~112.5%多い、つまり作業効率の向上が見られたとまとめた。
こうしたVDT症候群に対するナナオからの提案として、同氏は自動輝度調整機能のBrightRegulatorをはじめ、可動範囲の大きなスタンド、一定時間ごとに休止時間の目安をポップアップ表示するソフト「EyeCare Reminder」、ディスプレイの使用時間を通知するソフト「EyeCare Recoder」を紹介。「EIZOディスプレイは、VDT指導による疲労対策に最適化された機能を搭載している」と自社製品に対する自信を語った。
また、ナナオは6月30日に同社Webサイト内に特設ページ「今すぐできる!疲れ目対策講座」をオープンするなど、今後も継続的にVDT作業による疲労対策の認知度向上に努めていくという。
●では、液晶ディスプレイをどう使えば疲れないのか?
セミナーの第2部は、同社マーケティング部 商品技術課商品管理係の上田陽一氏が「今すぐできる!疲れ目対策講座」と題して、VDT指導に沿った目が疲れにくい液晶ディスプレイの使い方を実演した。同氏は、 VDT作業従事者に対して労働衛生教育を指導できる「VDT作業労働衛生教育インストラクター」でもある。同氏によれば、液晶ディスプレイの使い方を変えることでできる疲れ目対策は、「適切なディスプレイの配置と調整」「正しい姿勢」「定期的なVDT作業の休止」の3つに大別できるという。
ディスプレイの配置については、「まず、外光が映り込まないように画面の向きを変えたり、画面の上端が目の位置よりやや下になるように高さをセットしたうえで、画面の輝度を外光に応じて紙に近い明るさに調節する。そして、視点移動を抑えるためにディスプレイと目の距離は最低でも40センチ、画面が横に長いワイド液晶では50センチ以上とることが目に負担をかけない使い方だ」と述べた。
一般的なオフィス環境は照度が500~1000ルクス程度あり、「ディスプレイの輝度は100~150カンデラ/平方メートルに設定するのが適切」とのこと。昼間と夜で部屋の明るさが変わるような環境では、ディスプレイの輝度をいちいち再調整するのは面倒だが、「BrightRegulatorを備えた EIZOの液晶ディスプレイであれば、VDT作業で最適な輝度に自動調整してくれる」と同社製品の優位性も語った。
ユーザーの座る姿勢は、「イスに深く腰をかけて背もたれに十分背をあて、背を伸ばし、座面の先端とヒザの裏にすき間があり、靴底の全体が床に接した状態が基本だ」と説明。ただし、「同じ姿勢を長時間続けると筋肉が緊張して負担がかかるため、ときどき腰や足の位置を変えて無理のない姿勢を保つのがいい」と加えた。
定期的なVDT作業の休止では、厚生労働省のVDTガイドラインに1時間の連続作業の間に10分程度の休止時間を入れることが明記されている。一般的に人間は長時間に渡って同一姿勢を維持したまま意識を集中して作業し続けることは困難なので、「休止時間は作業効率の向上を図るうえでも効果的」という。
ただし、実際に仕事をしていると1時間毎に10分間休むのは難しいケースが多いだろう。これに対しては「現実的には1時間に1回程度、PCを使用しないほかの仕事をうまく組み込むなど、目を休めつつ作業効率を高めるような工夫が必要になる」と答えた。